誰でもよかった。結婚できれば。夏目の文豪力

映画「それから」三千代役の藤谷美和子

文豪の射程距離は、100年以上は現在性のあるアーキタイプ(元型)と接続していることなので、作中の台詞から読み解いてみよう。

映画のエンドロールを見ればわかるように「蒲田行進曲」の主役は松坂慶子。銀ちゃんとヤスのドタバタは彼女を引き立たせるためのつかこうへいのトリックプレイだった。

「僕の存在には、あなたが必要だ。どうしても必要だ。僕はただそれだけを伝えたくて、わざわざあなたを呼んだのです。」

「それから」の重力装置はこの場面なんだけど、この映画の主役は三千代の方だったのか。夏目は男尊女卑の明治時代の作家だから、まさか「女が主役の小説」を発表できない事情があったのだろう。

「私、自分に復讐したんです。あなたが何も仰ってくれないから。誰でもよかったの。あなたが勧めてくれる人なら尚の事...」

正岡子規