安二郎の決算報告書

小津安二郎の墓

▶ この墓石は墓地にあるので大リーグボール2号のように保護色で仏教用語に見えるのだが、その真意は「映画人生で貯金は作れなかったが、借金もなかった」という意味なのだとか。

映画というものはブログと違って金がかかるので、さだまさしが「長江」を一本撮っただけで「芸の射幸心」に溺れて個人で30億円もの借金を背負ってしまい、その後は労働基準法ギリギリの過密なコンサートを長年行って借金を完済したとか、村上龍が「だいじょうぶマイ・フレンド」を撮ったというだけで週刊誌や批評家に袋叩きにあったとか、甲子園と同様、魔物が棲んでいる業界である。

だからこそドイツ人のヴィム・ヴェンダースが墓参りして

「私の映画はマニア向けなのでハリー・ポッターのようにテーマパークになったり経済効果も期待できませんが、せめて次の映画を撮れる程度の興行収入がありますように」

と粛々と祈る気持ちもわかる。

▶ それでも、金は残らなくても映画のフィルムは残ったからね。

映画好きの新田さんみたいに「小津の『秋刀魚の味』はタイトルとは裏腹に、作中に一度もサンマのカットが出てこない。いったい何故か。風評被害で絵になるサンマが入荷できなかったのだろうか.....」など娯楽の寿命が長い。

松尾芭蕉の句だって「古池に飛び込む前のカエルは、どんなシチュエーションと心境だったのか」とか後世の人の「読み方味わい方」で想像が無限に広がるでしょう。

荒井由実「卒業写真」