疾きこと水の如し

日野原重明(医師)

▶ そうですね。「なんで自分がこんなことになるんだ」という思いの方が強いですからね。だからみんなコートのせいにしていた。「コートさえ着てくれば」と。男が「大丈夫か、大丈夫か」と介抱していた。相当ひどかったですね。僕はまだ座っていられるくらいだった。そのときになって、「ああ、これは何か大変なことが起こったんだ」と初めて認識しました。

ただ、今僕がお話ししていることも、自分では〈覚えていること〉だと思っているんですが、あるいはひょっとしてそうじゃないかもしれません。あとで誰かから「こうだったよ」と聞いた話で欠落したところを埋めて、自分の記憶だと思いこんでるだけかもしれません。ただはっきり記憶しているのは、電車が小伝馬町のホームに...

村上春樹アンダーグラウンド

冨岡義勇